僕らはいま「昨日の世界」に生きているのだろうか。

「グランド・ブダペスト・ホテル」を観た。

楽しい!

もう、完全にウェス・アンダーソンの映画!

僕は、彼の「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」が大好きで、あれからジーン・ハックマンを見ても、クヴィネス・パルトロワを見ても、ベン・スティーラーを見ても、「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」の人たちだ!という印象に支配される。それくらい好きな映画だ。

で、「グランド・ブダペスト・ホテル」も期待通り、楽しく鑑賞した。

箇条書きで書くと

・映像がすべて左右対称!
・描かれる時代ごとに画面のサイズが違う!
・とにかく、背景もインテリアも衣装もすべてが素敵!
・カメラの動きがない!あるとしたらすっげえ速い!
・物語のなかに登場する建物すべてに名前が書いてある!
・スキーチェイスが素晴らしい!

また、キャスティングがすべて絶妙で、ベタな配役もあれば意外な役どころもあり、そういうのも楽しめる。
で、映画だけでもとても楽しい映画で、かわいくて、箱庭的なおしゃれな映画。

なのだが、

最初と最後に現代と思われる映像に「作家」がどうたらこうたらいうくだりがあり、その作家の若いときをジュード・ロウを演じている。

この物語は、ジュード・ロウが「ゼロ」という老人から伝説のコンシェルジュ「グスタフ」の話をする、という形で、その絵本のような世界が描かれる。

そして、最後に
「シュテファン・ツヴァイクからインスパイアされた」
という字幕がでる。

はて、シュテファン・ツヴァイクとは誰か?

現代ではほとんど忘れられた作家だけども、20世紀初頭のウイーンで活躍した世界的なベストセラー作家だった。

いわゆる僕らの知っている「マリー・アントワネット」は、彼の著作のイメージから語られたものだという。

19世紀末から20世紀初頭のオーストリア・ハンガリー帝国のウイーンといえば、ユダヤ人の差別を禁止したユートピアのような国で、フロイト、カフカ、シュトラウス、ブラームス、ブルックナー、マーラーなど世界中から才能のある人たちが集まり、素晴らしい芸術作品を作り上げていた。

シュテファン・ツヴァイクもその1人で、しかも彼は世界中に大物の支持者がいたという。

ロマン・ロランやゴーリキー、アインシュタインなどとも交流があり、ムッソリーニに手紙を書いて友人の命を救ったこともあるという。

そんなユートピアなオーストリアに、ナチスがやってくる。

ツヴァイクはイギリスに亡命し、アメリカを経て、ブラジルに亡命する。

これは、まるで劇中の「グスタフ」の活劇にも似たようなところがある。

世界中から愛されているツヴァイク。そして彼の亡命を助けるネットワーク。

そして、ブラジルで、第二次世界大戦の戦渦を見て、自殺する。

これまで美しかった彼の世界が、戦争によって破壊されていく様に絶望したと言われている。

どうだろうか、これはまるでこの映画「グランド・ブダペスト・ホテル」が、ツヴァイクの生涯を描いた映画ともいえるし、その彼の生涯をコミカルにかわいくおしゃれに描きながら、戦争の理不尽さ、絶望を訴えている反戦映画とも言える。

物語はかわいいし、おしゃれだし、コミカルだ。
だけども、この映画を観終わったあとに残る余韻。
ゼロが感じる無常観。
そして、作家であるジュード・ロウのまなざし。

そういった絶妙に複雑なレイヤーが、この作品のメッセージが、いまの時代に訴えている何かがあるのではなかろうか。

ツヴァイクの最後の作品といわれる「昨日の世界」は、文化が爛熟したウイーンが、戦争によってその文化が破壊される様子を描いているといわれている。

さて、いつも思っているのだけども、ウェス・アンダーソンとソニック・ユースのサーストン・ムーアはとても似ていると思うのですが、いかがでしょうか。



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